【書評187】バレエ漬け

草刈民代著

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バレリーナ、そして映画監督の妻


草刈民代さんは、日本屈指のバレエダンサーであり、
1996年、30歳のときに映画『Shall we ダンス?』に出演。
その直後、映画監督の周防正行氏と電撃的に結婚。

今年、43歳にして、36年間のバレエ人生に終止符を打ったことでも
話題になった。


『ぱなし』人間

数年前、たまたま見ていた何かのテレビ番組に、
草刈民代さんが出演していた。

その番組の最後に読まれた、夫 周防正行氏の「妻への手紙」が
とても感動的だった。

かなり前の記憶なので表現は正確ではないが、
周防氏は、草刈さんのことを『ぱなし人間』と表現していた。


「民ちゃんは、電気をつけたらつけっ『ぱなし』、ご飯を食べたら食べっ『ぱなし』、
脱ぎっ『ぱなし』、やりっ『ぱなし』の、『ぱなし人間』」


彼女が出かけたあとの部屋の様子を見たら、
どこをどう歩いて何をしたのか、その痕跡がすべて残っているのだそうだ。


そんな妻の『ぱなし』のあとを、周防氏が一つずつ片付けてまわる。
妻が夫の世話をするのは甲斐甲斐しい美談だが、
男女逆の場合、通常なら「悪妻」呼ばわりか、ひた隠しか、
そうでもしないと夫のほうが「頼りない男」と評判を下げそうなものである。

ところが、周防氏は妻の『ぱなし』を本当に愛しそうに語った。


40歳になって結婚した、10歳近くも歳下の美人妻だからか。

押しも押されぬ日本を代表する映画監督だから、
ちっぽけな男のプライドなどとうに捨て去ったのか。


・・・手紙が読み進められるうちにその理由がわかった。


多分、周防氏は、パレエ一筋の妻を心から尊敬しているのだ。


草刈さんはバレエにとってプラスになることはどんなことでもし、
バレエにとってマイナスになることは一切やらないという主義を
毎日の生活の中で徹底して貫いているという。

買物でも遊びでも、バレエ以外のことで体を疲れさせるようなことは
極力やらないという徹底的なストイックぶりだ。


『ぱなし』の妻への手紙はこんなふうに締めくくられた。


「踊りっ『ぱなし』のキミと、これからも結婚しっ『ぱなし』でいたい」

と。


お互いに違う分野で一流の才能を持ち、
それを尊重し合って、支えあって生きる夫婦。


その番組を見て以来、周防夫妻は、私にとって、
有名人カップルの中で最も理想の夫婦となった。


「恵まれた人」

端麗な容姿、裕福な家庭、バレリーナとして一つの道を極め、
初めて出演した映画が大ヒットし、その監督と結婚。
世の中から才能を充分に認められているばかりか、
一人の女性としてありのままを愛しくれる人もいる。

そんな、私から見たら幸せを絵に描いたような草刈さんだが
やはりその世界の第一人者がみなそうであるように、
長い年月を大きな葛藤と共に生きてきたことが本書では随所に語られている。


●幼い頃に、単なる習い事としてバレエを始めるのは、
 世界各国共通なことかもしれないが、
 その後、どのようにバレエに取り組んでいくのか、ということに対して、
 ロシアやヨーロッパでは、随分早い段階で選択することになる。
 
 (中略)

 その点、日本のダンサーの存在は、実にあやふやなものだと
 私は感じている。(中略)
   
 本気で取り組もうとしている人びとにとっては、目指すところ、
 目標にするところが見えづらい環境なのだ。(中略)

 私自身のことを考えても、このまま続けていってよいものだろうか、
 などと迷いながら、二十代を過ごしてしまった。
 「これが仕事なのだ」と胸をはって言えないようなものに取り組んでいて、
 果たしてよいのか、という迷いを常に抱えていたのだ。

 しかし、いつもいつも、自分には踊りしかできない、という答えに
 たどり着いてしまう。
 それは決して、自分にとって前向きな答えではなかった。
 考えるたびに、「他のことをする勇気が持てない」自分を責めた。

●踊る環境をつくることに力を尽くしてくれた両親を持ち、
 他人の目からは、華やかに活動をしているように見えていた私は、
 「恵まれた人」と言われていたけど、本当はそう言われることがたまらなく嫌だった。
 (中略) 

 どんなに努力をしても、「恵まれている」という一言ですべてを
 かたづけられてしまうようで、悔しい思いをさせられることが多かった。
 (中略)

 認めてくれる人、批判する人、いろいろな人の目に晒されながら、
 私は今、やっと、ここにいる。
 何かに挑戦しようとしてゆく限り、人目に晒されることは、続いてゆくのだ。
 大切なのは、自分の信念。
 自分にとって、大切なものを探そうとする意志なのではないかと思う。

●今まで自分が求めていたものは、日本人のバレエダンサーとしての、
 アイデンティティのようなものだったのではないかと。
 
 たぶん私は、踊ることを通して、「自分が自分である」ということを、
 深く体感したいのだ。

 願わくば舞台の上で。


私の『ぱなし』

自慢じゃないが、私もひどい『ぱなし』人間で、
家族やパートナーなど身近な人たちにはこれまでさんざん呆れられてきた。


だから、テレビで周防氏の手紙の言葉を聞いたときは、
「いいなー、愛する人に全面的に認めてもらえるなんて。
その上片付けてもらえるなんて・・」と羨ましく思ったものだが、
もちろん草刈さんはただの「だらしない女」ではなく、
一つのことにあまりに徹底して突き抜けるあまりに、
それ以外のことに思いが及ばない、、そんな人なんだと思う。

そうやって精神的、肉体的に均衡を保っているのかも知れない。


それは人としてとても「バランス」を欠いた生き方だけど、
私も、すべてが平均点の無難な人生より、
たった一度の人生、何か一つに大きく突き抜けてみたい。
「そこそこ安泰で楽しい人生だったな」と思って死ぬより、
「これだけは私やりきったわ!」って言って死にたい。


働きっぱなし?

売りっぱなし?

儲けっぱなし?



・・・・・・微妙(笑)

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