【書評164】「R25」のつくりかた

藤井大輔著

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著者紹介

1973年生まれ。95年大阪大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。
「ゼクシィ」「AB-ROAD」「ダ・ヴィンチ」「都心に住む」などの媒体に携わる。
2004年、「R25」創刊に関わり、2005年より編集長。
ウェブ、R25式もモバイルなどのクロスメディア展開に携わり、2006年「L25」創刊。
現在、リクルートR25事業ゼネラルマネージャー。


インサイトを探り当てる難しさ

最近、お客様先やいろんな著書で「インサイト」という言葉に触れる。

本書の中にもこんな記述がある。

今のコミュニケーションに求められているのは、
表面上でしゃべっていることの、実はその内側にある本音をつかみ出して、
そこをうまく形にしてあげることではないか、と思っています。

実際、R25というメディアを作っていく過程は、
まさにこの「インサイト」という言葉に集約されたと思っています。
洞察力、心の本音を探り当てる力、です。
消費者が自分自身でも気づかない、意識していないような、
それでも「いいな、これ」と手を伸ばしてしまうような意識。
そんな「心のホット・ボタン」とも言えるインサイトを、いかに探り当てるかが大切なのです。


消費者が自分自身でも気付かない心理
・・・「インサイト」に先回りできたことが「R25」成功の要因だ。

「R25」は、M1層(20~34歳男性)をターゲットとして、
政治や経済に関する時事ネタからスポーツ・エンタメなどの幅広い分野のコラムが、
コンパクトに詰まった情報誌である。
それぞれのコラムは半ページ程に短くまとめられているから
電車などの移動時間、待合せなどの「隙間時間」には最適の読み物だ。


そもそも、この企画が持ち上がった2004年当時、
「今の時代、M1層は活字を読まない、紙媒体を好まない。」
という説がメディア業界を一世風靡していた。


2004年と言えば、まさに私自身も、
手がけていた美容情報誌が広告売上の低迷で廃刊し、
ネットメディアに切り替わることが決まった年だから、
当時のメディア界の一般的風潮は鮮明に覚えている。


でも、この「通説」にそう簡単に惑わされないところが、
リクルートマーケティングの凄いところだ。

この時期、私の会社も含めて多くの企業が、
紙媒体⇒インターネットへと移行を図っていたにも関わらず、
その流れに反し、しかも「最も紙媒体を見ない層」とされたM1層向けに
「R25」は創刊され、彼らの情報源として今や完全に定着している。


もちろん、フリーペーパーというインフラ勝負の商材において、
リクルートの政治力?や資金力や・・・
その他色んな成功要因があったことは確かだが、
やはり、彼らの「インサイト」への洞察力が大きな勝因であることに間違いはないだろう。

特に私が興味深かったのは、
「M1層はなかなかホンネを語らない」ということに「R25」の商品開発チームが
はっきりと気付いていたということ。


アンケート調査の罠

私も商品開発の過程において、グループインタビューや
インターネットでのアンケート調査など数々の市場調査を行ってきた。

これらは確かに重要な資料であり、
幾たびもの社内稟議をくぐり抜けなければならない新規事業開発において
これらの調査結果ほど説得力を持つものはない。


ところが、この「ユーザーの声」が曲者だ。


私たち人間の思考の中には、現実の自分以外に、
「こういう自分でありたい」という理想の自分がいて、
アンケートに答える本人が意図的に嘘をついているつもりはなくても
無意識に「こういう自分でありたい」ほうの自分が答えていたりする。


本書の中にも出てくるのだが、例えば、

「新聞を読みますか?」

という問いに対して、グループインタビューでは多くの若者が、
「読みます」と答えるという。
そしてそのほとんどが「何新聞を読みますか?」という問いに対して、
「日経新聞」と答えるという。


最初は調査結果を鵜呑みにしていた「R25」チームも、
質問の方法を変えながら繰り返し調査することで、
どうも彼らの中に「新聞くらい読んでいないと恥ずかしい」という意識が
働いているようだと気付く。

また、彼らが、必ずしも紙という形態を好まない訳ではなくて、
読みたい情報であれば読むということもわかってきた。

更に、「忙しくて活字を読む時間がない」と答えていた彼らも、
通勤中などの「隙間時間」はけっこうあるということにも行き着いた。


ここに、

「(実は)新聞はそんなに読んでないけど、
それに代わる読みやすく解説された情報源があるならぜひ読みたい」

「通勤中に読んだりカバンに入れて持ち歩ける紙媒体はけっこう便利」

というまさに、現在の「R25」の基本コンセプトができあがるわけである。


作り手側のインサイト

私が自分の商品開発経験上強く思うのは、
ユーザーのアンケート結果以上にやっかいなのが、「作り手側のプライド」である。

やはり、作る側も人間、自分が携わる商品は、
できれば自分の興味のある分野で、しかもできるだけかっこいいものがいい。
「○○ちゃんの会社こんなの作ってるんだー!」
「うん、私が企画したんだ」
「かっこいいー!!」
なんて答えてみたい願望もある(笑)。


もちろんそんな単純な話だけではないにしても、
この、作り手側の美学やこだわりが、
実はユーザーにとってはさほど必要なものではない、
という商品開発のパターンは、世の中結構溢れているように思う。

作り手は、毎日そのことだけを寝ても冷めても考えているものだが、
そのプロ意識が、逆に一般消費者の「常識」を遠ざけてしまう。

リリース前に一応モニター調査なんかもしてみるのだが、
「作り手側の自己満足」と「ユーザー側のこうなりたい自分」が
時折妙に一致しちゃったりして、
意外とそんな「高嶺の花」みたいな商品が支持されたりする。

こうなるともう「作り手側の欲望」は止められない。
鬼の首を取ったように意気揚々と社内プレゼンして、
その「浮世離れした」商品企画を最後まで押し通してしまうのである。
(私にもちょっと心当たりが・・・(笑))


作り手側の狙い通りのアンケート結果を集めるのは、
実は意外と簡単なことだ。
ちょっとした質問のニュアンス、選択肢の対峙のさせ方などのよって、
それなりに意図した答えは導き出せる。

営業資料や社内稟議のためならこの「誘導的」回答もある程度は有効だが、
マーケットに潜む新たな「インサイト」を見つけ出し、
真にニーズのある商品を開発するためのアンケートとして考えたときに
当然それらは何の意味もなさない。


作り手側の社内事情や自己満足を徹底的に排除し、
ユーザーアンケートの(見た目の)結果に振り回されることなく、
ユーザー自身も気付いていない真のニーズを探り当て、
それを的確に商品(サービス)という形に落とし込むこと


本当に難しいことだが、
この正しい商品開発の工程が実現できる企業にしか
永遠に「ヒット商品」は生み出せないのだとうことを、
本書を読んで改めて実感した・・

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