【書評143】変人力~人と組織を動かす次世代型リーダーの条件~

マイクロソフト株式会社代表執行役員COO 樋口泰行著

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常識ある変人


表紙の帯のコピーをそのまま引用すると、

ダイエー前社長が「再生の泥沼」でつかんだリーダーシップ論。
異様なまでの執念と非常識な考え方を持たなければ、
組織のDNAは変えられない!


いったいどれほどの「変人」なのかと思って読んでみたが、
まったくそんなことはない。
むしろ、非常に常識的で合理的、それどころか、
どちらかというと情緒的で他人の反応に敏感な方なんだろうなぁと
僭越ながら推測したりする。

ただ、ある種の大企業病が蔓延した旧体質組織の中で、
499日間という凝縮された時間を駆け抜け、
痛みを伴う大きな改革を断行しなければならなかった樋口氏の
当時の壮絶な経験が、このタイトルを想起させたのだろう。

アップルコンピューターや日本ヒューレットパッカードなど
名だたるIT企業、しかも外資企業の重職の経験を経て培われた
その『常識的な』彼の考え方は
日本の産業界を象徴する「再生案件」であるダイエー内では
自分自身を『変人』だと位置付けて信念を貫くよりよりほかなかったのかもしれない。

●社内文化にどっぷり浸かるあまり、自分たちがズレていることにも
 気づかなくなる。これでは、どれほど素晴らしい戦略を立てても、
 社内の人的資源がボトルネックになってしまう。

●自分自身の視点が高いか低いかは、視点が高くなってみて初めて
 わかることだし、こうした資質は座学で勉強したからといって
 身に付くものではない(中略)
 
 戦略力とは、その人がプレッシャーを伴ったダイナミックな環境で
 どれだけ経験を積んだかによって決まる(中略)
 「人生をどれだけ見通せるかは、その人の人生経験の厚みと長さによって決まる」

●米国では、すべてのビジネスパーソンの素養を表すときに
 「バンドウィドス(bandwidth)という言葉が使われることがある。
 日本語に訳すと「帯域幅」という意味で、
 その人がどれくらい幅広い経験や知識を備えているかを表す言葉だ。
 バンドウィドスが広ければ、そのぶん処理能力は大きくなり、
 そこから伝達される他の機能も活性化していく。

●米国のビジネスパーソンの中でも上昇志向の強い人たちは、
 一つの領域を究めるだけでは大成できないと考え、
 意識的に変化をつけたキャリアを歩んでいる。

 戦略力を磨くためには、こうした多面的な経験こそが一番の鍵となる。
 様々な業界、企業、職種などで異質の経験を積み重ねることで、
 いくつもの視点から仮説を構築・検証できるようになり、
 戦略がクリアに語られるからである。

●要は、戦略というものを真剣に考えざるを得ない状況に
 身を置いているかどうかで、勉強意欲から吸収度合いまで、
 まったく異なってくる。
 したがって、成長を加速させる近道は、どんな立場にいようとも
 「他人事」ではなく「我が事」として物事を捉える習慣を
 身につけることである。

●改革を導くリーダーには「ぶれない軸」が欠かせない。(中略)
 物事の真実を見きわめる目、非常に遠くを見通す目を持っていることが大切だ。
 短期的な視点で考えると間違っているように見えるかも知れないが、
 長期的な視点で考えたり、後から振り返ってみると、
 「結局は正しかった」と思われるような判断をリアルタイムで下せるかどうか。

●変人力の大きさは、(中略)「軸の精度×実行力」で決まる。
 遥か先まで見通せる揺るぎない軸をもって、
 阿修羅のような凄まじい信念で改革を実行することができれば、
 その成果は自ずと高まるものだと思う。

●言わば「T字型」の人材であることが、チェンジリーダーには求められている。
 T字型のタテ棒で特定領域を深堀しながら、ヨコ棒で幅広い領域にも
 めを向けているというイメージだ。

●自分の信じる道を突き進めば、周囲から白い目で見られるかも知れないが、
 いつかサポーターは必ず現れる。(中略)
 チェンジ・リーダーが本当に孤独なのは最初のうちだけなのだ。


私が新規事業を選ぶ理由

 
彼が置かれた重大な立場や任務を考えると、
私ごときが共感なんて軽々しい言葉を使うのもおこがましいのだが、
私自身がどうしても大企業に馴染めない体質なので、
「なんでこんな『合理的で普通のこと』が通じないのか」という
彼の苦悶の叫びが行間から聞こえてくるようだった・・・

会社が大きくなって歴史が長くなって関わる人間が多くなったら、
沢山のルールが必要だし、
そうやって企業の信頼や社内の秩序が保たれていることは充分にわかる。

それでも私には耐えられなかった。

どうみても合理的な理由が見当たらないのに
「前任者からの引継ぎだから」という理由で、
毎回決まったオペレーションを繰りかえさせられる作業とか、
ハンコの数が多すぎる稟議書とか、
「何のために?」って聞いたら、「レギュレーションですから」って
普通に答えてしまう風土とか。

見る人から見れば
「え?そんなこと?」っていうくらい些細なことなんだけど(笑)。
私にとっては死活問題で、
どうにも我慢できずに転職をしたことや異動希望を出したことも
実際ある。

でもあるとき気付いた。

人様が築き上げた土壌の上に、そのノウハウをお借りして
仕事をやらせていただいているんだ。仕方がないか・・と。

だったら、戦略も、レギュレーションも、事業の定義さえも、
自分で決める側になりたいと思ったのが
新規事業にはまってしまった理由だと思う。

もちろん今は少し大人になったので(笑)
受け入れるべきものは受け入れるようにしているが、
私の仕事観の原点はそこにある。


どこの会社も目線を変えれば非常識の固まりだ。
特定の人が集まって特定の仕事をしていれば、
遅かれ早かれいずれそうなる。
そうならざるを得ない部分もある。

ただそのことに常に気付いている企業でありたい。

いつの間にか自分たちで作った風土に引きずられて
方向転換ができずにいる企業は少なくない。

「今、うちの会社こっちよりだなぁ」とか、
「あえてあっちにシフトしてみるか」とか、
会社のありようそのものすら戦略的に自在にドライブできるような、
そんな力をつけていきたい。

ビジョンと信念だけは決してぶらすことなく。。

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